一日の間に到着せねばならない目的地があるとして、一人は苦しみに耐え杖に頼ってでも歩き続けた。他の一人はあまりに苦しいので、ある石の上で一休みした。石の上に寝転がって空を見ると雲が風のまにまに走っていて、そのうち自分の寝ている石が飛んでいくような錯覚に陥る。それで大変嬉しくなって、いろいろと空想をめぐらし、もう目的地に着いたか知らんと思って身を起こしてみると、まったく以前のままである。その間に歩いていた人はもう目的地に着いたのに、自分はまだまだ遠くに居ると今更後悔してもはじまらない。

河合隼雄   明恵夢を生きる

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